主要な研究テーマ

■ 光電変換材料:高効率太陽電池の作製
Photoelectric conversion materials
 災害経験を経て、再生可能エネルギーの重要性が再認識されると共に、一般にも広く認知されるようになりました。また、スマートグリッドの発展に伴って分散発電の意義もより深まっています。 最も身近な再生可能エネルギーとして(太陽)光発電により得られる電力が挙げられ、家庭用のパネルも普及が進んでいます。
 しかし依然として、高効率化やコスト低減などを背景とする技術的課題が多く残されています。 例えば、より平易で資源的リスクを低減する観点から、半導体・絶縁層の新材料探索。そして作製プロセスや条件の簡素化などです。
 我々のグループでは、例えばSi単結晶ウェハ上に、ITO(111)/CeO2(111)/Si(111)のMIS型エピタキシャル太陽電池構造を室温で作製するすることに成功し、シャープで理想的な接合界面を形成するプロセスの研究を進めてきました。
 また、透明電極(ITO)の新規作製プロセスの研究も行っており、独自のナノインプリント技術と薄膜合成プロセスを用いて、一般的なソーダライムシリカガラス上に超平坦ITO(111)薄膜を作製することにも成功しています。
1) J. Tashiro et al., Thin Solid Films, 415 (2002) 272–275.
2) Yasuyuki Akita et al., Appl. Phys. Exp., 4 (2011) 035201-1 — 035201-3.
エピタキシャル酸化セリウム絶縁層によるMIS型太陽電池の特性 ガラス上に室温堆積した超平坦ITOの透明導電膜
■ 単結晶ナノ周期構造の自己組織化
Self-assembly formation of epitaxial periodic nanostructures
 現在のエレクトロニクスで用いられるナノサイズのデバイスや材料は、その大きな部分を”artificial”なトップダウン型の微細加工技術に頼っています。 極小で高精細なバターンを描く技術が進化している一方、そのトレードオフとしてスループットや歩留まりなど生産性に関わる課題が浮上しています。
  我々の研究グループでは、ナノレベルのモフォロジー制御技術として、従来のリソグラフィ技術と共存共栄可能な自己組織化現象について研究をしています。
 例えば、単結晶α-Al2O3(サファイア)の市販ウェハを制御条件下で熱処理することにより、ウェハ表面に原子レベルで平坦なテラスと原子ステップを有する、超平坦サファイアウェハの作製技術を見出しました。 このウェハは、青色発光ダイオードの主材料であるGaN(0001)エピタキシャル薄膜の作製などに大変有利であることが分かっています。 シングルステップの場合にはステップ高さは結晶構造に起因して一意に決まるため、このテラス幅はオフ角度(ウェハの理想結晶面からのずれ)によって制御することが可能です。
 また様々な機能性酸化物、例えばNiO(111)やYSZ(111)、CeO2(111)などのエピタキシャル薄膜中の結晶欠陥やその移動を制御することにより、薄膜表面に周期的なナノ溝構造ナノグルーブアレイを自己組織的に形成する現象も発見しました。引き続き、異方的な電磁気特性やユニークな光学特性についても研究しています。
1) M. Yoshimoto et al., Appl. Phys. Lett., 67 (1995) 2615–2617.
2) S. Akiba et al., Nanotechnology, 17 (2006) 4053–4056.
3) A. Matsuda et al., Appl. Phys. Lett., 90 (2007) 182107-1 — 182107-3.
原子ステップ超平坦テラスを有するサファイアウェハ表面 原子ステップおよび超平坦テラスの概略図 エピタキシャルNiOの自己組織化ナノ周期構造
■ 非晶質材料の表面ナノ構造構築
Formation and properties of surface nanopatterns on amorphous materials
 エレクトロニクスでは、フレキシビリティや製造・加工容易性、結晶構造を持たないが故の等方的な性質、といった観点から非晶質材料の重要性もいっそう増しています。
 我々のグループでは、ガラス基板や酸化物アモルファス薄膜、高分子薄膜の表面に、ナノスケールでの形状を付与することにより、特異な表面機能を発現させる試みに挑戦しています。
 例えば、独自に作製したサファイアや酸化物の自己組織化モールドを用いて、各種非晶質材料の表面に、周期的なナノウォールや原子ステップなどをナノインプリントする研究を行っています。
 また、ナノインプリントされたガラス基板上にITOを室温〜比較的低温で成長させることにより、超平坦表面を有する、あるいは異方的な特性を有する透明導電膜を形成する研究も実施しています。
1) S. Akiba et al., Appl Surf. Sci., 253 (2007) 4512–4514.
2) Y. Miyake et al., Jpn. J. Appl. Phys., 50 (2011) 078002-1 — 078002-2.
ガラス表面へのナノインプリント手法 ナノインプリント法により作製したガラスナノウォール
■ 原子レベルナノインプリント
Atomic-scale nanoimprint lithography
 工業的価値から、各種リソグラフィ技術やエッチング技術に代表される、材料の微細加工技術は欠かすことができないものになっています。 より小さい加工を高精度に実施するため、これら技術は日々進化し続けていますが、どのような現象・技術を使えば最小の形状を再現良く構築できるのか、という点は現在も科学的興味を惹きつけるテーマです。
 我々のグループでは、微細加工の限界を究める挑戦、原子サイズやサブ原子サイズの表面加工を実現する研究も行っています。
 例えば、SiO2系層状化合物であるマイカ(雲母)のへき開面に観察される周期的な原子配列をナノインプリントのモールドとして用いる研究を実施しています。
マイカ(雲母)へき開面の原子間力顕微鏡像 マイカを用いたガラスへの原子レベルナノインプリント
■ 酸素中パルスレーザ堆積法によるダイヤモンド合成
Growth of epitaxial diamond films by pulsed laser deposition
 吉本グループでは、Si系デバイスや酸化物・窒化物半導体のみではなく、カーボンをベースとする機能材料の研究も進めています。 ダイヤモンドや類似の構造を持つ物質は、半導体や摺動材料などとして、エレクトロニクスやトライボロジーの広い分野において科学的・工業的な価値が高く評価、または期待されています。
 ダイヤモンド薄膜などはメタン(CH4)と水素(H2)原料として化学気相成長法(CVD; Chemical Vapor Deposition)で作製されるのが一般的ですが、単結晶状に得るのが難しいことが課題となっています。
 我々のグループでは、グラファイト(黒鉛)を原料として、H2の代わりに酸素(O2)雰囲気中でレーザーアブレーションすることにより、サファイア基板上にダイヤモンド薄膜を比較的低温でエピタキシャル成長させる技術を見出しました(Nature誌掲載)。 また、カーボン含有ナノファイバーの合成、CCDカメラ付き分光システムを使った短パルス発光柱の瞬間画像の時間分解測定なども行い、薄膜合成のメカニズムに関する研究も実施しています。
1) M.Yoshimoto et al., Nature, 399 (1999) 340–342.
2) M. Yoshimoto et al., Diamond and Related Materials, 10 (2001) 295–299.
3) K. Nakajima et al., Diamond and Related Materials, 11 (2002) 953–956.
エピタキシャル合成したダイヤモンド薄膜 エピタキシャル合成したダイヤモンド薄膜
■ スピントロニクス:磁性ナノ構造の作製と評価
Preparation of magnetic nanostructures & development of spintronic devices
 電子の電荷に加えてスピン自由度もデバイスに応用するスピントロニクス材料の研究に取り組んでおり、電子デバイスの高速化・大容量化・不揮発化などの加速に寄与することを目的としています。
 スピントロニクスは、多くの研究者や研究資源が投じられてきた技術分野ですが、複合材料や材料系の観点から新材料探索、プロセス探求、そして応用技術の確立など幅広い実用化に際しては、課題が多くあります。
 我々のグループでは、例えば(Mn, Zn)Fe2O4などの強磁性(FM)酸化物をPLD法により超平坦サファイア基板上に自己組織化したり、反強磁性(AFM)であるNiOの周期的ナノ構造を還元して強磁性Niナノグルーブ配列を作製し、それらの微細構造と異方的特性の評価を行ってきました。
 また、標準生成自由エネルギーに基づいた酸化還元制御を実施することにより、MgOなど非磁性酸化物母相と強磁性Niナノ分散粒子との「エピタキシャル」複合薄膜など新規な材料系を作製するプロセスの研究も進めています。
1) M. Yoshimoto et al., Science and Technology of Advanced Materials, 5 (2004) 527–532.
2) Hideki Arai et al., Jpn. J. Appl. Phys., 50 (2011) 070206-1 — 070206-3.
酸化物磁性ナノワイヤのエピタキシャル成長 MgO母相中に還元析出させたNi結晶の磁性ナノ粒子